最大剰余方式で得票数を増やしても議席が減ってしまう理由

 比例代表選挙で前回よりも多くの票を獲得しても得票率が下がれば議席を減らす可能性がある。逆に、票数が伸びなくても得票率が上がれば議席を増やす可能性がある。これはどんな配分方法でも同じで当然だと思うが、最大剰余方式では票数の伸び率の高い方が議席を減らして代わりに低い方が議席を増やすことがあり、「人口パラドックス」と呼ばれている。票数の伸び率と得票率は比例していないのだから当然の現象だと思うが、どの程度の確率で起きるのか知りたくてExcelを使って確認してみた。一強多弱になるような乱数の生成方法の影響もあるかもしれないが、議席数や政党数を変えて確認したら1万件中200件を超えることもあった。また、どのようなケースで議席を減らしやすいのかも見えてきた気がする。

 次の5つの事例は架空の選挙結果で「人口パラドックス」が起こった状態である。政党1から政党12まで、「前回」の選挙で得票数が多かった順に並べてある。事例1では、政党1は政党6よりも得票数の伸び率が高いが議席を減らし、政党6は議席を増やした。事例2では、政党1は政党6よりも得票数の伸び率が低いが議席を増やし、政党6は議席を減らした。事例3では、政党2,3,4は政党5よりも得票数の伸び率が高いが議席を減らし、政党5は議席を増やした。事例4では、政党4は政党6よりも得票数の伸び率が高いが議席を減らし、政党6は議席を増やした。事例5では、政党1,2は政党8よりも得票数の伸び率が低いが議席を増やし、政党8は議席を減らした。

人口パラドックスを起こした事例1
人口パラドックスを起こした事例1
人口パラドックスを起こした事例2
人口パラドックスを起こした事例2
人口パラドックスを起こした事例3
人口パラドックスを起こした事例3
人口パラドックスを起こした事例4
人口パラドックスを起こした事例4
人口パラドックスを起こした事例5
人口パラドックスを起こした事例5

 ところで、政党 $i$ の前回の選挙での得票数を $x_{i}$、得票率を $p_{i}$、今回の選挙での得票数の伸び率を $q_{i}$ とすると、今回の選挙での得票率 $p_{i}+\Delta p_{i}$ は次のようになる。

\begin{equation}
p_{i}+\Delta p_{i}=\frac{x_{i}q_{i}}{\sum_{i=1}^n (x_{i}q_{i})} \label{eq:今回の得票率}
\end{equation}

 $n$ は立候補した政党の数である。
 前回の選挙での全得票数(有効票数)を $X=\sum x_{i}$、今回の選挙での有効票数の伸び率を $Q=\frac{\sum(x_{i}q_{i})}{X}$ とすると、\eqref{eq:今回の得票率} は次のように変形できる。

\begin{equation}
p_{i}+\Delta p_{i}=\frac{\frac {x_{i}q_{i}}{X}}{\frac {\sum_{i=1}^n (x_{i}q_{i})}{X}} =\frac{p_{i}q_{i}}{Q} \label{eq:今回の得票率2}
\end{equation}

 したがって、今回の選挙での得票率の増減分は次のようになる。

\begin{equation}
\Delta p_{i}=p_{i} \left(\frac{q_{i}}{Q}-1 \right) \label{eq:得票率の増減}
\end{equation}

 \eqref{eq:今回の得票率2} と \eqref{eq:得票率の増減} はどんな有効票数 $X$ でも成立するので、得票数 $x_{i}$ ではなく得票率 $p_{i}$ を使って考察できる。

 さて、式 \eqref{eq:得票率の増減} から次のような関係になっていることが分かる。

\begin{empheq}[left=\empheqlbrace]{align}
q_{i} \gt Q &&ならば &&\Delta p_{i} \gt 0 \label{eq:得票率の増加条件}\\
q_{i} \lt Q &&ならば &&\Delta p_{i} \lt 0 \label{eq:得票率の減少条件}
\end{empheq}

 また、同じ伸び率( $q_{i}=q_{j}=q$ )ならば、次のような関係になっていることも分かる。

\begin{empheq}{align}
p_{i} \gt p_{j} &&ならば &&|\Delta p_{i}| \gt |\Delta p_{j}| \label{eq:得票率の大小と変化量の大小}
\end{empheq}

 すなわち、得票数の伸び率 $q_{i}$ が有効票数の伸び率 $Q$ よりも大きければ、得票率 $p_{i}$ は大きくなり、その大きさは前回の得票率 $p_{i}$ が大きいほど大きい。これは大政党ほど議席が増加しやすいことを示している。逆に、得票数の伸び率 $q_{i}$ が有効票数の伸び率 $Q$ よりも小さければ、得票率 $p_{i}$ は小さくなるが、その大きさ(変化量)は前回の得票率 $p_{i}$ が大きいほど大きい。これは大政党ほど議席を減らすリスクが高くなることを示している。投票率が高くなって有効票数が増えた場合、議席を減らさないためには、大政党ほど得票数を増やさなければいけない。これは最大剰余方式に限らず言えることである。

 そのことを踏まえて、上記の事例を見ると、事例1は、政党1も政党6も伸び率が合計の伸び率よりも低い。すなわち、「前回」の得票率が高かった政党1の方が政党6よりも得票率が下がりやすい。そして、政党1の方が政党6よりも得票数の伸び率が高くても得票率を大きく下げた結果、配分議席の「小数部分」も大きく下げて小数部分の順位を政党6に逆転されて1議席を渡すことになった。ここで、「前回」は小数部分の順位が4位でも1議席を追加できたが「今回」は1議席を追加できるのが3位までなので、4位の政党1は議席を失った。ただ、伸び率の大きな政党2が小数部分ではなく繰り上がった「整数部分」で議席を増やしているので、政党1は実質5位と見ることもできる。
 事例2は、政党1も政党6も伸び率が合計の伸び率よりも高い。すなわち、「前回」の得票率が高かった政党1の方が政党6よりも得票率が上がりやすい。そして、政党1の方が政党6よりも得票数の伸び率が低くても得票率を大きく上げた結果、配分議席の「小数部分」も大きく上げて小数部分の順位で政党6を逆転して1議席を奪うことになった。ここで、「前回」は小数部分の順位が5位でも1議席を追加できたが「今回」は1議席を追加できるのが4位までなので、5位の政党6は議席を失った。ただ、伸び率の大きな政党3が小数部分ではなく繰り上がった「整数部分」で議席を増やしているので、政党6は実質6位と見ることもできる。
 事例3は、政党2,3,4も政党5も伸び率が合計の伸び率よりも低い。すなわち、「前回」の得票率が高かった政党2,3,4の方が政党5よりも得票率が下がりやすい。そして、政党2,3,4の方が政党5よりも得票数の伸び率が高くても得票率を大きく下げた結果、政党2は配分議席の「整数部分」で議席を2つも減らし、政党3,4は配分議席の「小数部分」を大きく下げて小数部分の順位を政党5に逆転されて1議席を渡すことになった。ここで、「前回」は小数部分の順位が3位でも1議席を追加できたが「今回」は1議席を追加できるのが2位までなので、3位の政党4と4位の政党3は議席を失った。政党2は小数部分の順位で「前回」は8位だったが「今回」は1位だったので、整数部分で減らした2議席の内1議席は取り戻した。また、政党1は小数部分の順位を3位から5位に落としているが、得票率が大きく伸びて小数部分が繰り上がった「整数部分」で3議席も増やしているので、実質1位で、その他の政党は実質順位が一つづつ低いと見ることもできる。
 事例4は、政党4も政党6も伸び率が合計の伸び率よりも低い。すなわち、「前回」の得票率が高かった政党4の方が政党6よりも得票率が下がりやすい。そして、政党4の方が政党6よりも得票数の伸び率が高くても得票率を大きく下げた結果、配分議席の「小数部分」も大きく下げて小数部分の順位を政党6に逆転されて1議席を渡すことになった。ここで、政党1も議席を減らしているが、それは得票数の伸び率が低いためで、得票率を大きく減らして配分議席の「整数部分」で2議席減らしたためである。
 事例5は、政党1,2も政党8も伸び率が合計の伸び率よりも高い。すなわち、「前回」の得票率が高かった政党1,2の方が政党8よりも得票率が上がりやすい。そして、政党1,2の方が政党8よりも得票数の伸び率が低くても得票率を大きく上げた結果、配分議席の「小数部分」が繰り上がった「整数部分」で1議席ずつ増やし、政党2は「小数部分」の順位を落としても6位に留まり、追加の1議席を維持した。それに対し、政党8は「小数部分」の順位を5位から7位に落として1議席を失った。このケースでは、政党3と政党4が得票率を減らして「整数部分」の議席を減らしたが、代わりに「小数部分」の順位を上げて1議席ずつ取り戻している。その結果、政党8の「小数部分」の順位が下がったと言える。

 このように、得票率の伸び率が有効票数の伸び率よりも大きい場合は小政党方が大政党よりも伸び率が高くても小政党から大政党に議席が移りやすいが、得票率の伸び率が有効票数の伸び率よりも小さい場合は大政党の方が小政党よりも伸び率が高くても大政党から小政党に議席が移りやすい

 事例1~事例5の得票率と議席数の関係をグラフにすると次のようになる。議席を増やしても減らしても、「人口のパラドックス」が起こっても、「得票率」という民意に沿った議席になっていることが分かる。

最大剰余方式での得票率と議席数の関係
最大剰余方式での得票率と議席数の関係

 さて、「人口パラドックス」が起こる確率であるが、数式で示すことはできないが、Excelでランダムに得票率と伸び率を決めて1万件を計算し、その内の何件が「人口パラドックス」を起こしたかを数えた。改選議席数と立候補政党数を変えて何度か試した結果の、現在の最小件数と最大件数は次のとおりである。

改選議席数立候補政党数人口パラドックスの発生数
最小最大
2012173213
2010148197
208130179
1012135180
1010122170
108109157
812119161
810114156
8892129

 「人口パラドックス」は「アラバマのパラドックス」よりは起こりにくいようである。ただし、得票率の乱数は「アラバマのパラドックス」を試した【アラバマのパラドックスがあっても得票率という民意を重視するなら最大剰余方式】の時と同様に一強多弱になりやすいように設定してあり、伸び率の乱数は $1 \lt q_{i} \lt 2$ で一様分布になるようにして全ての政党の得票数が増えるように設定してある。得票率の分布を変えたり得票数が減る場合を含めたらどうなるかは確認していない。

 最後に比例代表選挙での目標票数について書いておく。
 どんな配分方式でも、得票率に比例した配分の「整数部分」の議席を獲得できることは同じである。違うのは「小数部分」の配分方法である。この「小数部分」については読みにくいので、「整数部分」で議席を獲得できるように目標票数を決めた方が良い。
 投票された全ての票が有効票だと仮定すると、有効票数 $X$ は $(投票率 \times 有権者数)$ であり、目標票数は次の条件を満たす必要がある。

\begin{equation}
\left\lfloor \frac {目標票数}{投票率 \times 有権者数} \times 改選議席数 \right\rfloor \ge 目標議席 \label{eq:目標票数の条件}
\end{equation}

 すなわち、次のように目標票数を決めた方が良い。

\begin{equation}
目標票数 \ge \left\lceil \frac {投票率 \times 有権者数}{改選議席数} \times 目標議席 \right\rceil \label{eq:目標票数}
\end{equation}

 得票率を目標にするのなら、次のように決める。

\begin{equation}
目標得票率 \ge \frac {目標議席}{改選議席数} \label{eq:目標得票率}
\end{equation}

 例えば、改選議席数が10議席なら得票率は最低でも10%、20議席なら最低でも5%を目指して、達しなかった場合は1議席も獲得できなくても仕方ないと、厳しく目標を設定した方が良い。そして、決まった組織票だけでは投票率が上がった場合に得票率は下がりやすいので、しっかりと目標票数を上げて臨まないといけない。

日記
シェアする
いしい@長文をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました