比例代表制の選挙での議席の配分は各政党の得票率にできるだけ近い方法が良いが、残念ながら現在のドント方式は【やっぱり比例代表制でのドント方式は大政党が得してた】に書いたように大政党に有利で得票率からのずれが大きくなる。得票率に比例した議席数の配分に最も近いのは最大剰余方式だが、議席数は整数でなくてはいけないので小数点以下の値を議席数に反映させる際に多少のずれはある。このずれが原因で「アラバマのパラドックス」が起こるのだが、改善議席数が変わらない通常の選挙では起こりようがない。それに対して、ドント方式では大政党が有利になる状態は常に起こりうる。また、最大剰余方式には「人口パラドックス」と呼ばれている現象もあるが、これは非常に起こりにくいらしい。いつかは確率を数式にしたい。
「アラバマのパラドックス」が起こる確率を調べたくてExcelを使ったシミュレーションで意図的に「アラバマのパラドックス」を起こしていたのだが、その際に気付いたことがあるので、メモしておく。
次の三つの事例は架空の選挙結果で「アラバマのパラドックス」が起こった状態である。事例1と事例2は、改選議席数が「10」から「11」に増えたことで、得票率が変わってないのに「政党4」は議席数を一つ減らし、「政党1」と「政党2」は議席数をそれぞれ一つづつ増やした。事例3では「政党4」と「政党5」が議席数をそれぞれ一つづつ減らし、「政党1」と「政党2」と「政党3」は議席数をそれぞれ一つづつ増やした。



この結果を数式を使って考察してみる。
改選議席数を $C$、政党$i$ の得票率を $p_{i}$ とすると、政党 $i$ に得票率で比例配分される議席数 $y_{i}$ は $C \times p_{i}$ である(注意:この値は小数)。改選議席数が一つ増えて $C+1$ になった場合に、増加した比例配分議席数を $\Delta y_{i}$ とすると、次のようになる。
\begin{equation}\begin{split}
y_{i}+\Delta y_{i} &= (C+1) \times p_{i}\\
&= C \times p_{i} + p_{i} \label{eq:改選後比例配分議席数}
\end{split}\end{equation}
\begin{equation}
\Delta y_{i} = p_{i} \label{eq:改選後比例配分議席数_増加分}
\end{equation}
改選議席数が一つ増えた「今回」の「比例配分議席数」は改選議席数が増える前の「前回」の「比例配分議席数」に「得票率」を足した値になる。比例配分議席数 $y_{i}$ を整数部分 $ \lfloor y_{i} \rfloor$ と小数部分 $\{ y_{i} \}$ に分けると「今回」の整数部分は次のようになる。
\begin{equation}\begin{split}
\lfloor y_{i}+\Delta y_{i} \rfloor &= \lfloor y_{i} + p_{i} \rfloor \\
&= \left\lfloor \lfloor y_{i} \rfloor + \{ y_{i} \} + \lfloor p_{i} \rfloor + \{ p_{i} \} \right\rfloor \\
&= \lfloor y_{i} \rfloor + \left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor \label{eq:改選後比例配分議席数_整数部分}
\end{split}\end{equation}
\eqref{eq:改選後比例配分議席数_整数部分} の第2項 $\left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor$ が1になると、「今回」の整数部分が「前回」よりも1議席増える。しかし、「前回」も「今回」も整数部分だけで議席数が決まるわけではない。小数部分の比較で決まる議席が残っている。「今回」の小数部分は次のようになる。
\begin{equation}\begin{split}
\{ y_{i}+\Delta y_{i} \} &= \{ y_{i} + p_{i} \} \\
&= \left\{ \lfloor y_{i} \rfloor + \{ y_{i} \} + \lfloor p_{i} \rfloor + \{ p_{i} \} \right\} \\
&= \left\{ \{ y_{i} \} + p_{i} \right\} \label{eq:改選後比例配分議席数_小数部分}
\end{split}\end{equation}
改めて、「前回」と「今回」の「比例配分議席数」を並べて書くと次のようになる。
\begin{equation}
\begin{cases}
y_{i} &= \lfloor y_{i} \rfloor + \{ y_{i} \}\\
y_{i}+\Delta y_{i} &= \lfloor y_{i} \rfloor + \left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor + \left\{ \{ y_{i} \} + p_{i} \right\} \label{eq:比例配分議席数}
\end{cases}
\end{equation}
「今回」の式の第2項と第3項は $(\{ y_{i} \} + p_{i})$ (「前回」の「小数部分」と「得票率」の和)の「整数部分」と「小数部分」である。
「前回」に小数部分 $\{ y_{i} \}$ の比較で1議席獲得していたら、「今回」の $\left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor$ が1になって整数部分で1議席増えても小数部分 $\left\{ \{ y_{i} \} + p_{i} \right\}$ の比較で負けて1議席を獲得できなかったら、「前回」と変わらないことになる。
そして、「前回」に小数部分 $\{ y_{i} \}$ の比較で1議席を獲得していても、「今回」の $\left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor$ が0で、小数部分 $\left\{ \{ y_{i} \} + p_{i} \right\}$ の比較でも1議席を獲得できなかったら、1議席減らすことになる。これが「アラバマのパラドックス」を数式で見た状態である。逆に、「今回」の $\left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor$ が1になれば、小数部分 $\left\{ \{ y_{i} \} + p_{i} \right\}$ の比較で負けても、議席を減らすことはなく、「アラバマのパラドックス」は起こらない。
次に小数部分の比較について考察する。
まずは、得票率で比例配分される議席数 $y_{i}$ の整数部分 $\lfloor y_{i} \rfloor$ が各政党に配分され、その総数が改選議席数 $C$ に達しなかった場合に、小数部分 $\{ y_{i} \}$ の大きい順に残りの議席数を配分する。それが「最大剰余方式」である。
この「残りの議席数」が「前回」と「今回」では異なることがある。したがって、「前回」は小数部分の比較で3位までが1議席多く獲得できていたのに「今回」は2位までしか1議席多く獲得できないというようなことが起こりうる。この「残りの議席数」は次のようになる。ここで $n$ は立候補した政党の数である。
\begin{empheq}[left={残りの議席数=\empheqlbrace}]{align}
& C - \sum_{i=1}^{n} \left( \lfloor y_{i} \rfloor \right) &&(前回)\\
& C+1 - \sum_{i=1}^{n} \left( \lfloor y_{i} \rfloor \right) - \sum_{i=1}^{n} \left( \left\lfloor \{ y_{i} \} + p_{i} \right\rfloor \right) &&(今回)
\end{empheq}
以上を踏まえて、「アラバマのパラドックス」を起こした上記の事例を見てみる。

事例1は政党1と政党2が「今回」は「前回」よりも1議席多く獲得して、政党4が1議席を失っている。政党1と政党2は「整数部分」で既に1議席増やしているが、政党4は0のまま変わらない。「整数部分」で決まらなかった「残りの議席数」は「前回」は $10-7=3$ 議席であるが「今回」は $11-9=2$ 議席で「前回」よりも1議席少ない。政党1と政党2は「小数部分」の比較で「前回」も「今回」も1位と2位なので、1議席追加している。それに対し、政党4は「小数部分」の比較で「前回」は3位で1議席を獲得できたが、「今回」は4位なので議席を獲得できなかった。たとえ「前回」と同じ3位でも、「今回」は「小数部分」で2議席しか争えないので、落選していた。その結果、政党4の「今回」は $0$ 議席となり、「アラバマのパラドックス」が起こった。

事例2も政党1と政党2が「今回」は「前回」よりも1議席多く獲得して、政党4が1議席を失っている。しかし、事例1と異なり、政党1も政党2も「整数部分」は「前回」と同じである。政党4も0のまま変わらない。「整数部分」で決まらなかった「残りの議席数」は「前回」は $10-8=2$ 議席で「今回」は $11-8=3$ 議席で「前回」よりも1議席多い。すなわち、「小数部分」の比較で1議席を獲得できるのは、「前回」は2位までだったが「今回」は3位までが獲得できる。政党1と政党2は「前回」は3位と4位で1議席を獲得できなかったが、「今回」は2位と3位で1議席を獲得している。それに対し、政党4は「前回」は2位で1議席を獲得できたが「今回」は4位で獲得できなかった。その結果、政党4の「今回」は $0$ 議席となり、「アラバマのパラドックス」が起こった。

事例3では政党1と政党2と政党3が、「今回」は「前回」よりも1議席多く獲得して、政党4と政党5が1議席を失っている。事例1や事例2と異なり、二つの政党が議席を減らしている。事例2と同じで「整数部分」はどの政党も「前回」と「今回」が同じである。そして、「残りの議席数」も事例2と同じで、「前回」は $10-8=2$ 議席で「今回」は $11-8=3$ 議席である。さて、「小数部分」の順位を見ると、政党1と政党2と政党3は「前回」は3位、7位、6位で1議席を獲得できなかったが、「今回」は1位と3位と2位で1議席を獲得している。それに対し、政党4と政党5は、「前回」は1位と2位で1議席を獲得できたが「今回」は4位と5位で獲得できなかった。その結果、政党4と政党5の「今回」は $0$ 議席となり、「アラバマのパラドックス」が起こった。
ところで、横軸(x軸)を得票率、縦軸(y軸)を議席数にして「今回」の結果をグラフにすると、次のようになる。

議席数は整数にしかならないので、実際の議席数は得票率に比例した議席数( $y=11x$ の直線)から少し離れている。それでも、できるだけ近づくように議席数が決まっているはずである。それは、次のように証明できる。
政党 $i$ が獲得した議席数を $Y_{i}$ とすると、得票率で比例配分される議席数 $y_{i}$ との差の総和 $S_{d}$ あるいは 差の二乗の総和 $S_{sd}$ ができるだけ小さい方が良い。
\begin{empheq}[left={\empheqlbrace}]{align}
S_{d} &= \sum_{i=1}^{n}|Y_{i}-y_{i}| \label{eq:理想と現実の差}\\
S_{sd} &= \sum_{i=1}^{n}(Y_{i}-y_{i})^{2} \label{eq:理想と現実の差の二乗}
\end{empheq}
$Y_{i}$ を $y_{i}$ の「整数部分」で獲得した議席数 $\lfloor y_{i} \rfloor$ と「小数部分」で獲得した議席数 $r_{i}$ に分けると、$Y_{i}-y_{i} = r_{i}-\{ y_{i} \}$ なので、\eqref{eq:理想と現実の差} と \eqref{eq:理想と現実の差の二乗} は次のようになる。
\begin{empheq}[left={\empheqlbrace}]{align}
S_{d} &= \sum_{i=1}^{n}|r_{i}-\{ y_{i} \}| \label{eq:理想と現実の差2}\\
S_{sd} &= \sum_{i=1}^{n}(r_{i}-\{ y_{i} \})^{2} \label{eq:理想と現実の差の二乗2}
\end{empheq}
$0 \le \{ y_{i} \} \lt 1$ なので、$S_{d}$ や $S_{sd}$ をできるだけ小さくするには、$r_{i} \ge 2$ でない方が良い。すなわち、$r_{i} = 0$ または $r_{i} = 1$ ($r_{i}$ は定義により整数)である。したがって、\eqref{eq:理想と現実の差2} の $|r_{i}-\{ y_{i} \}|$ は次の二つのどちらかである。
\begin{empheq}[left={|r_{i}-\{ y_{i} \}|=\empheqlbrace}]{align}
& \{ y_{i} \} &&(r_{i}=0) \\
& 1-\{ y_{i} \} &&(r_{i}=1) \label{eq:理想と現実の差2の場合分け}
\end{empheq}
したがって、$S_{d}$ をできるだけ小さくするには、$r_{i}=0$ の場合は $\{ y_{i} \}$ は小さい方が良く、$r_{i}=1$ の場合は $1-\{ y_{i} \}$ が小さい( $\{ y_{i} \}$ が大きい)方が良い。すなわち、得票率で比例配分される議席数 $y_{i}$ の「整数部分」で配分された後の残りの議席の配分は「小数部分」 $\{ y_{i} \}$ の大きい順に配分した方が $S_{d}$ が小さくなる。
また、\eqref{eq:理想と現実の差の二乗2} の $(r_{i}-\{ y_{i} \})^{2}$ は次の二つのどちらかである。
\begin{empheq}[left={(r_{i}-\{ y_{i} \})^{2}=\empheqlbrace}]{align}
& \{ y_{i} \}^{2} &&(r_{i}=0) \\
& (1-\{ y_{i} \})^{2} &&(r_{i}=1) \label{eq:理想と現実の差の二乗2の場合分け}
\end{empheq}
したがって、$S_{sd}$ をできるだけ小さくするには、$r_{i}=0$ の場合は $\{ y_{i} \}$ は小さい方が良く、$r_{i}=1$ の場合は $(1-\{ y_{i} \})$ が小さい( $\{ y_{i} \}$ が大きい)方が良い。すなわち、得票率で比例配分される議席数 $y_{i}$ の「整数部分」で配分された後の残りの議席の配分は「小数部分」 $\{ y_{i} \}$ の大きい順に配分した方が $S_{sd}$ が小さくなる。
もう少し厳密に証明すると、次のようになる。
今、$\{y_{i}\} > \{y_{j}\}$ という2つの値があり、「大きい方の $\{y_{i}\}$ を $r_{i}=1$ に選び、小さい方の $\{y_{j}\}$ を $r_{j}=0$ にした場合」(大きい順)と「あえて小さい方の $\{y_j\}$ を $r_j=1$ に選び、大きい方の $\{y_i\}$ を $r_i=0$ にした場合」(小さい順)を比較する。
$S_{d}$ の他の部分は同じなので、「大きい順」と「小さい順」の $S_{d}$ の差は次のようになる。
\begin{equation}\begin{split}
&大きい順 &&- 小さい順\\
=& (1-\{ y_{i} \}+\{ y_{j} \}) &&- (1-\{ y_{j} \}+\{ y_{i} \}) \\
=& 2(\{ y_{j} \}-\{ y_{i} \}) \lt 0\\
\end{split}\end{equation}
すなわち、「大きい順」の $S_{d}$ は「小さい順」の $S_{d}$ よりも小さい。だから、$\{ y_{i} \}$ の大きい順に配分した方が $S_{d}$ が小さくなる。
「大きい順」と「小さい順」の $S_{sd}$ の差は次のようになる。
\begin{equation}\begin{split}
&大きい順 &&- 小さい順\\
=& ((1-\{ y_{i} \})^{2}+\{ y_{j} \}^{2}) &&- ((1-\{ y_{j} \})^{2}+\{ y_{i} \}^{2}) \\
=& (1-2\{ y_{i} \}+\{ y_{i} \}^{2}+\{ y_{j} \}^{2}) &&- (1-2\{ y_{j} \}+\{ y_{j} \}^{2}+\{ y_{i} \}^{2}) \\
=& 2(\{ y_{j} \}-\{ y_{i} \}) \lt 0\\
\end{split}\end{equation}
すなわち、「大きい順」の $S_{sd}$ は「小さい順」の $S_{sd}$ よりも小さい。だから、$\{ y_{i} \}$ の大きい順に配分した方が $S_{sd}$ が小さくなる。
次のグラフはExcelで最大剰余方式での配分をシミュレーションした1万件のデータから、1政党分の得票率と獲得議席数の関係をプロットしたものである。得票率の順位は固定していない。グラフには得票率で比例配分された場合に相当する傾き10の直線($y=10x$)と傾き11の直線($y=11x$)も引いてある。10議席を配分した場合も11議席を配分した場合も、得票率で比例配分された場合に沿っていることが分かる。

比較のため、ドント方式で10議席や11議席を配分した場合も確認してグラフにした。次のように、得票率が高くなると、配分される議席数が得票率で比例配分された場合に相当する傾き10の直線($y=10x$)や傾き11の直線($y=11x$)よりも大きくなっている。

ドント方式での配分が大政党に有利で、最大剰余方式での配分の方が民意である得票率に近いことが、シミュレーション結果からも分かった。
最後に、「アラバマのパラドックス」が起こる確率であるが、数式で示すことはできないが、Excelでランダムに得票率を決めて1万件を計算し、その内の何件が「アラバマのパラドックス」を起こしたかを数えた。改選議席数と立候補政党数を変えて何度か試した結果の、現在の最小件数と最大件数は次の表のとおりである。
| 改選議席数 | 立候補政党数 | アラバマのパラドックスの発生数 | |
|---|---|---|---|
| 最小 | 最大 | ||
| 20 | 12 | 861 | 958 |
| 20 | 10 | 808 | 848 |
| 20 | 8 | 675 | 737 |
| 10 | 12 | 641 | 733 |
| 10 | 10 | 560 | 641 |
| 10 | 8 | 470 | 554 |
| 8 | 12 | 554 | 636 |
| 8 | 10 | 503 | 540 |
| 8 | 8 | 462 | 473 |
改選議席数が多いほど、立候補政党数が多いほど「アラバマのパラドックス」が起こりやすい傾向が見られるが、このシミュレーションは乱数を使って得票率を作成し、一強多弱になりやすいように設定してあるからかもしれない。乱数で生成した1政党分の1万件の得票率の分布は次のようになっている。

順位で並べ替えると次のようになる。

今回は、このような得票率の分布でシミュレーションを行った。
二大政党になりやすくしたり、得票率の格差が小さくなりやすくするなど得票率の分布傾向を変えると改選議席数や候補政党数の影響も変わる。シミュレーションする前には高くても数%と聞いていたが、改選議席数をさらに増やすなど変数を変えて試したら、10%を超える確率になることもあることが分かった。
しかし、民意を表す得票率での比例配分に最も近い方式であることは最大剰余方式の一番のメリットである。



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