比例代表選挙における政党合併後の議席の増減についての数学的考察

 政党が合併すれば政党の規模は一般的には大きくなるが、比例代表選挙で合併後の得票率が合併前の得票率の和よりも低くなると当選議員の数は増えずに減ることがある。では、合併後の得票率が合併前の得票率の和と同じで、他の政党の得票率も変わらなかったら、当選議員は増えるのか減るのか、気になったので数学的に考察してみた。
 比例代表選挙での配分方法には、現行のドント方式と得票率に比例する最大剰余方式があるが、考察した結果によると、ドント方式の場合は配分議席が減ることはなく、増えても1議席だけである。また、最大剰余方式の場合に議席が増えるのは合併前に剰余分でどちらも1議席を獲得できていなかった場合だけで、どちらも剰余分で1議席を獲得できていた場合は議席を減らすことがあり、増えるのも減るのも1議席だけである。

 まずはドント方式であるが、政党 $i$ の配分議席 $Y_{i}$ は得票率 $p_{i}$ を当選ライン $d$ で割って次のように決まる。

\begin{equation}
Y_{i}=\left\lfloor \frac{p_{i}}{d} \right\rfloor \label{eq:ドント方式配分}
\end{equation}

 また、次のような不等式が成り立つ。

\begin{equation}
Y_{i} \le \frac{p_{i}}{d} \lt Y_{i}+1 \label{eq:ドント方式配分の上限と下限}
\end{equation}

 ところで、改選議席数 $C$ は次のように表せる。

\begin{empheq}[left=\empheqlbrace]{alignat=2}
C &= \left\lfloor \frac{p_{1}}{d_{合併前}} \right\rfloor +\left\lfloor \frac{p_{2}}{d_{合併前}} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{d_{合併前}} \right\rfloor \label{eq:改選議席数C_合併前}\\
C &= \left\lfloor \frac{p_{1} + p_{2}}{d_{合併後}} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{d_{合併後}} \right\rfloor \label{eq:改選議席数C_合併後}
\end{empheq}

 ここで、$d_{合併前}$ と $d_{合併後}$ の関係を確認するために、次の関数 $G(x)$ を用意する。

\begin{equation}
G(x) = \left\lfloor \frac{p_{1} + p_{2}}{x} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{x} \right\rfloor \label{eq:総議席関数G}
\end{equation}

 床関数(ガウス記号)の優加法性( $\lfloor X + Y \rfloor \ge \lfloor X \rfloor + \lfloor Y \rfloor$ )から、次の関係が成り立つ。

\begin{equation}
G(x) \ge \left\lfloor \frac{p_{1}}{x} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{x} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{x} \right\rfloor \label{eq:総議席関数Gと優加法性}
\end{equation}

 \eqref{eq:総議席関数G} に $x=d_{合併後}$、\eqref{eq:総議席関数Gと優加法性} に $x=d_{合併前}$ を代入すると次のようになる。

\begin{empheq}[left=\empheqlbrace]{alignat=2}
G(d_{合併後}) &= \left\lfloor \frac{p_{1} + p_{2}}{d_{合併後}} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{d_{合併後}} \right\rfloor =C \label{eq:総議席関数G_合併後}\\
G(d_{合併前}) &\ge \left\lfloor \frac{p_{1}}{d_{合併前}} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{d_{合併前}} \right\rfloor + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{d_{合併前}} \right\rfloor=C \label{eq:総議席関数Gと優加法性_合併前}
\end{empheq}

 したがって、$G(d_{合併前}) \ge G(d_{合併後})$ であり、$G(x)$ が単調減少関数(右肩下がりの階段状の関数)だから、$d_{合併前}$ と $d_{合併後}$ の大小は次のようになる。

\begin{equation}
d_{合併後} \ge d_{合併前} \label{eq:合併前後の当選ライン}
\end{equation}

 \eqref{eq:合併前後の当選ライン} は「議席を確保していた政党が合併すると当選ラインが高くなって得票率の低い小さな政党が議席を確保するのは難しくなる」ということを表している。

 さて、$Y_{1+2} \lt Y_{1}+Y_{2}$ (合併すると配分議席が減る)を仮定すると、別の政党 $k$ が合併前の議席 $Y_{k}$ から少なくとも1議席は増やすことになるので次の式が成り立つ。

\begin{align}
Y_{k} &\le \frac{p_{k}}{d_{合併前}} \lt Y_{k}+1 \label{eq:合併前Yk配分}\\
Y_{k}+1 &\le \frac{p_{k}}{d_{合併後}} \label{eq:合併後Yk配分}
\end{align}

 \eqref{eq:合併前Yk配分} と \eqref{eq:合併後Yk配分} から $d_{合併前}$ と $d_{合併後}$ には次の関係があることになる。

\begin{equation}
d_{合併後} \le \frac{p_{k}}{Y_{k}+1} \lt d_{合併前} \label{eq:合併前後の当選ライン2}
\end{equation}

 \eqref{eq:合併前後の当選ライン2} $d_{合併後} \lt d_{合併前}$ は \eqref{eq:合併前後の当選ライン} $d_{合併後} \ge d_{合併前}$ と矛盾する。したがって、$Y_{1+2} \lt Y_{1}+Y_{2}$ という仮定は誤りで、合併後に配分議席が減ることはない

 さらに、床関数(ガウス記号)には $\lfloor X + Y \rfloor \le \lfloor X \rfloor + \lfloor Y \rfloor +1$ という性質があるから、$G(x)$ には次のような関係がある。

\begin{align}
&G(x) \le \left\lfloor \frac{p_{1}}{x} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{x} \right\rfloor +1 + \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{x} \right\rfloor \notag \\
&G(x) - \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{x} \right\rfloor \le \left\lfloor \frac{p_{1}}{x} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{x} \right\rfloor +1 \label{eq:総議席関数Gの最大値}
\end{align}

 \eqref{eq:総議席関数Gの最大値} に $x=d_{合併後}$ を代入すると、\eqref{eq:総議席関数G_合併後} から左辺は次のようになる。

\begin{equation}
G(d_{合併後}) - \sum_{i=3}^{n} \left\lfloor \frac{p_{i}}{d_{合併後}} \right\rfloor = \left\lfloor \frac{p_{1} + p_{2}}{d_{合併後}} \right\rfloor \label{eq:総議席関数Gの最大値_左辺}
\end{equation}

 また、\eqref{eq:総議席関数Gの最大値} の右辺は、 $d_{合併後} \ge d_{合併前}$ なので、次のようになる。

\begin{equation}
\left\lfloor \frac{p_{1}}{d_{合併後}} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{d_{合併後}} \right\rfloor +1 \le \left\lfloor \frac{p_{1}}{d_{合併前}} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{d_{合併前}} \right\rfloor +1 \label{eq:総議席関数Gの最大値_右辺}
\end{equation}

 したがって、次の不等式が成り立つ。

\begin{equation}
\left\lfloor \frac{p_{1} + p_{2}}{d_{合併後}} \right\rfloor \le \left\lfloor \frac{p_{1}}{d_{合併前}} \right\rfloor + \left\lfloor \frac{p_{2}}{d_{合併前}} \right\rfloor +1 \label{eq:合併前後の議席数の関係}
\end{equation}

 すなわち、合併後に増える議席は1議席までである

 次に、最大剰余方式について考察する。

 最大剰余方式では、得票率 $p_{i}$ と改選議席数 $C$ の積 $y_{i}$ の整数部分 $\lfloor p_{i}C \rfloor$ の議席がまずは配分され、配分された議席の合計が改選議席数 $C$ に達するまで、小数部分 $\{ p_{i}C \}$ が大きい順($1$ に近い順)に配分される。

\begin{equation}
y_{i}=p_{i}C=\lfloor p_{i}C \rfloor + \{ p_{i}C \} \label{eq:最大剰余方式の理論配分}
\end{equation}

\begin{empheq}[left={Y_{i}= \empheqlbrace}]{alignat=2}
&\lfloor p_{i}C \rfloor + 1 &\ &(\{ p_{i}C \}で議席を獲得できた場合) \notag \\
&\lfloor p_{i}C \rfloor + 0 &\ &(\{ p_{i}C \}で議席を獲得できない場合) \label{eq:最大剰余方式での配分}
\end{empheq}

 最大剰余方式では他の政党の得票率が変わらない前提では、合併後に2議席増えることも、2議席減ることもない。これらは簡単に証明できる。

 以下は、合併後の得票率が合併前の得票率の和と同じで、他の政党の得票率が合併前後で変わらないことを前提にした考察である。

 合併後に2議席増える条件は「合併前にどちらも小数部分の順位で議席を獲得していない」かつ「合併後に小数部分の和が一の位に繰り上がり、小数部分の順位でも議席を獲得する」であるが、二つの小数の和が一の位に繰り上がったら小数部分は必ず足す前よりも小さくなるので \eqref{eq:小数部分の和で繰り上がる}、合併前に小数部分の順位で議席を獲得できていなかったのに、それよりも小さくなった小数部分で議席を獲得することはできない。したがって、合併後に2議席増やすことは不可能である。

\begin{empheq}[left={\{X\}+\{Y\} \ge 1 \Rightarrow \empheqlbrace}]{alignat=2}
\{X+Y\} \lt \{X\} \notag \\
\{X+Y\} \lt \{Y\} \label{eq:小数部分の和で繰り上がる}
\end{empheq}

 合併後に2議席減らす条件は「合併前にどちらも小数部分の順位で議席を獲得している」かつ「合併後に小数部分の和が一の位に繰り上がらず、小数部分の順位でも議席を獲得できない」であるが、二つの小数部分の和が一の位に繰り上がらなかったら小数部分は必ず足す前よりも大きくなるので \eqref{eq:小数部分の和で繰り上がらない}、合併前に小数部分の順位で議席を獲得できていたのに、それよりも大きくなった小数部分で議席を獲得できないことはあり得ない。したがって、合併後に2議席減ることはあり得ない。

\begin{empheq}[left={\{X\}+\{Y\} \lt 1 \Rightarrow \empheqlbrace}]{alignat=2}
\{X+Y\} \ge \{X\} \notag \\
\{X+Y\} \ge \{Y\} \label{eq:小数部分の和で繰り上がらない}
\end{empheq}

 また、片方だけが小数部分で議席を獲得していた場合は、合併後に繰り上がれば確実に1議席を獲得するが、小数部分は式 \eqref{eq:小数部分の和で繰り上がる} のように合併前に議席を獲得できていなかった方よりも小さくなるので、小数部分の順位で議席を獲得できない。合併後に繰り上がらない場合は小数部分が式 \eqref{eq:小数部分の和で繰り上がらない} のように合併前に議席を獲得できていた方よりも大きくなるので、小数部分の順位で確実に議席を獲得できる。すなわち、片方だけが小数部分で議席を獲得していた場合は、議席は変わらない

 さらに、当然であるが、合併前にどちらも小数部分で議席を獲得できていなかった場合に合併後に議席を減らすことはないし、合併前にどちらも小数部分で議席を獲得できていた場合に合併後に議席を増やすこともない。

\begin{empheq}[left={\empheqlbrace}]{alignat=2}
0=0 \ (=0+0) \notag \\ 1 \gt 0 \ (=0+0) \notag \\ 2 \gt 0 \ (=0+0) \notag
\end{empheq}

\begin{empheq}[left={\empheqlbrace}]{alignat=2}
0 \lt 2 \ (=1+1) \notag \\ 1 \lt 2 \ (=1+1) \notag \\ 2= 2 \ (=1+1) \notag
\end{empheq}

 したがって、合併後の議席の増減を合併前の小数部分での議席の獲得状態によって場合分けすると次の表のようになる。

合併前合併後
小数部分での議席繰り上げ小数部分
での議席
増減数
政党A政党B
00000
00011
00101
01010
01100
10010
10100
1101-1
1110-1
11110

 場合分けした表をグラフで表すと次のようになる。

合併前の両党の小数部分(小数部分での獲得ラインが0.5よりも小さい場合)
合併前の両党の小数部分(小数部分での獲得ラインが0.5よりも大きい場合)

 このように、ドント方式と異なり最大剰余方式は合併により議席を減らすことがある。議席が増える確率と減る確率を比較して減る確率の方が高ければ合併しない方が良いだろう。そこで、どちらが高いのか確認するためにシミュレーションを行った。

 上のグラフはシミュレーションでの合併前の両党の小数部分 $\{ p_{i}C \}$ がどのように分布しているかを示したものであるが、一様分布ではないことが分かる。一様分布であれば、増える確率は②と③の領域の面積を求めれば良いので、議席を獲得するために必要な小数部分の値を $t$ とすると、$\frac{t^2}{2}$ になり、$t=0.4$ では 8%、$t=0.6$ では 18% になる。逆に減る確率は⑧と⑨の領域の面積を求めれば良いので、$\frac{(1-t)^2}{2}$ になり、$t=0.4$ では 18%、$t=0.6$ では 8% になる。
 一様分布になっていない原因は、得票率 $\{ p_{i} \}$ の順位が異なる政党の合併なので、順位の低い方の得票率が低い分、議席数 $C$ を乗じた値の小数部分 $\{ p_{i}C \}$ も低くなりやすいことが原因と思われる。グラフでは、政党Aと政党Bの得票率が同じであるライン($y=x$)を境に右下の方が濃くなっていて、その濃くなっている右下では、順位が近いので $y=x$ から離れるにつれて薄くなっている。改選議席数 $C$ を増やすと一様分布に近くなる。

合併前の両党の小数部分(改選議席数が28の場合)

 シミュレーションでは得票率を生成する際に一様分布の乱数から得られた値を正規化すると非現実的なので、第51回衆議院議員総選挙の結果を参考にして、例えば12政党の場合には次のグラフのような得票率になるように調整した。

シミュレーション用得票率の分布(12政党の場合)

 このような得票率にする乱数は、0~1の一様乱数 (U) を生成し、次の数式で変換した値を用いた。

\begin{align}
正規化前得票率 &=\frac{1}{1+e^{10U}}\\
&=1/(1+EXP(10*RAND())) &(Excel表記)\label{eq:乱数生成式}
\end{align}

 もしも、0~1の一様乱数 (U) を生成して正規化しただけの場合、得票率は次のようになる。

一様分布で作成した得票率の分布(12政党の場合)

 また、小数部分 $\{ p_{i}C \}$ がどのような値だったら小数部分の順位で議席を獲得できるかグラフにすると次のようになる。

小数部分の順位で議席を獲得できる確率(政党数12、改選議席数6)
小数部分の順位で議席を獲得できる確率(政党数12、改選議席数28)

 改選議席数が少ないと、得票率の小さな政党はほとんど議席を獲得できなかったが、得票率が上位の政党の場合は小数部分の値が 0.5 よりも小さい値で議席を獲得できる確率が5割になり、その値の近辺で急激に確率が変化する。

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