最大剰余方式とアラバマのパラドックス等

 選挙で政党の得票率で配分された小数の議席数が整数になるように四捨五入すると、配分された議席数の和が定数を超えたり、足りなくなったりする問題を解決する調整法をGeminiに尋ねたら、「最大残差法(ハミルトン方式)」を教えてくれた。その後に調べたら「最大剰余方式」のことらしい。その手順は次の通りなのだが、得票率で配分する方法とは違う気がした。

  1. 基準値を出す: 1議席あたりの票数(総得票数 ÷ 総議席数)を計算します。
  2. 整数部分を配分: 各党の得票を基準値で割り、その整数部分をまず議席として割り当てます。
  3. 余り(残差)を比較: 合計議席が定数に満たない場合、小数点以下の端数が大きい順に、1議席ずつ定数に達するまで割り振ります。

 一般的な「最大剰余方式」は「基準値」を決めて「得票数」を「基準値」で割って整数部分の配分に小数点以下の部分の配分を足す。しかし、私は「定数(総議席数)」と「得票数」の積の整数部分を配分してから小数部分の配分を足すことをイメージしていた。実は、この二つの方法は同じ結果になる。

結論から申し上げますと、「得票率で計算する方法」と「1議席あたりの票数(基準値)で割る方法」は、数学的に全く同じ結果になります。

なぜ同じと言えるのか、その構造を整理しました。

1. 数学的な「同一性」の証明

以下の2つの式を見ていただくと、計算の順序が入れ替わっているだけで、中身は同じであることがわかります。

A:得票率を使う方法

$$\text{得票率} \times \text{総議席数} = \left( \frac{\text{その党の得票数}}{\text{総得票数}} \right) \times \text{総議席数}$$

B:基準値(1議席あたりの票数)を使う方法

まず基準値を計算し:

$$\text{基準値} = \frac{\text{総得票数}}{\text{総議席数}}$$

その党の得票を基準値で割ると:

$$\frac{\text{その党の得票数}}{\text{基準値}} = \frac{\text{その党の得票数}}{\left( \frac{\text{総得票数}}{\text{総議席数}} \right)} = \text{その党の得票数} \times \frac{\text{総議席数}}{\text{総得票数}}$$

見ての通り、最終的な式はどちらも 「(その党の得票数 $\div$ 総得票数) $\times$ 総議席数」 となり、1円の狂いもなく一致します。

2. なぜ「基準値(1議席あたりの票数)」という言葉を使うのか

ハミルトン方式を説明する際にこの言葉が使われるのは、**「1議席を取るために必要なコスト(票数)」**を可視化したほうが、直感的に理解されやすい場合があるためです。

  • 得票率ベース: 「全体の45.6%を占めているから、10議席なら4.56議席だ」
  • 基準値ベース: 「1議席には10,000票必要だ。君たちは45,600票持っているから、まず4議席。余りは5,600票だ」

歴史的に選挙制度を議論する場では、後者の「1議席いくら(クォータ)」という考え方が標準的だったため、解説書などではその表現がよく使われます。

 さて、この「最大剰余方式」で先日の衆院選の各党の得票率を配分してみると、偶然だが、各党の獲得議席が四捨五入した場合(参照)と一致した。

最大剰余方式での議席配分例

 基準値を使う最大剰余方式は「基準値」の決め方で得票率を使った場合と違う結果になることがあるかもしれない。例えば、「基準値」の小数点以下を切り捨てると誤差が生じるはずである。だから、「最大剰余方式」を使うよりは、単純に得票率と総議席数の積を使って配分した方が納得されやすい気がする。また、配分された議席数の小数点以下の扱いであるが、得票率を使う方法では、小数部分が1議席に近い方から配分するのは当然だろうし、最大剰余方式の「剰余」で見た場合は、剰余が基準値に近い方から配分するのは当然だろう。ちなみに「剰余」は配分された議席数の小数点以下と基準値の積である(各数値の小数点以下の処理しだいで誤差は生じる)から、小数部分の大きさで判断するのと同じ結果になる。

 さて、この優れた「最大剰余方式」に対して「アラバマのパラドックス」や「人口パラドックス」という欠点を指摘する言いがかりがある。

アラバマのパラドックス

総配分議席が増加したのにもかかわらず配分が減ってしまう現象を、アメリカ下院の議席配分での実例にちなみアラバマのパラドックスという。

以下の表は、総議席が10から11に増えるとC県への配分が減ってしまう実例を示している。

人口10議席11議席
取り分配分議席取り分配分議席
A県5,6655.1555.6656
B県3,6853.3533.6854
C県1,6501.5021.6501

人口パラドックス

人口が相対的に増加しているのに配分が減り、相対的に減少しているのに配分が増えてしまう現象を人口パラドックスという。

以下の表に例を示す。A県の人口増加率はB県よりも高いが、配分議席の変化はB県がA県から議席を奪う形になっている。

人口取り分配分議席人口人口増加率取り分配分議席
A県7,80015.616 ⇒ 8,432+8.1%15.3309...15
B県1,7003.431,836+8.0%3.3381...4
C県5001.01732+46.4%1.3309...1
10,0002011,00020
最大剰余方式 - Wikipedia

 選挙制度がドント方式になっているのは、この欠点が理由の場合もありそうだし、ハミルトン方式(最大剰余方式)よりドント方式の方が良いと主張している人もいる。
 しかし、Wikipediaから引用した「アラバマのパラドックス」の例は、「取り分」が人口比率で配分されて、その「整数部分」は確実に配分され、小数部分が1議席に近い(剰余が最も基準値に近い)順に追加で1議席配分されていて妥当な結果である。ちなみに、Geminiは「惜しい順」という表現で解説してくれた。議席数が増えたのに「C県への配分が減ってしまう」と主張しているが、「整数部分」の議席数は減っていない。おまけで配分されていた1議席が配分されなくなっただけである。

人口比率10議席11議席
取り分整数部分配分議席取り分整数部分配分議席
A県5,6650.5155.15555.66556
B県3,6850.3353.35333.68534
C県1,6500.1501.50121.65011
合計11,0001.00010.0091011.000911

 「人口パラドックス」の例も同様である。「A県の人口増加率はB県よりも高いが、配分議席の変化はB県がA県から議席を奪う形」と主張しているが、重要なのは人口増加率ではなく他県と比べた人口比率であり、その人口比率に従って「取り分」の「整数部分」は確実に配分されて、小数部分が1議席に最も近い(剰余が最も基準値に近い)県(人口増加前はA県、人口増加後はB県)に追加で1議席配分されていて妥当な結果である。ちなみに人口比率の減少はB県よりもA県の方が大きい。

人口比率取り分整数部分配分議席
A県7,8000.7815.61516 ⇒ 
B県1,7000.173.433
C県5000.051.011
10,0001.00201920
人口比率人口増加率取り分整数部分配分議席
A県8,4320.7665...+8.1%15.3309...1515
B県1,8360.1669...+8.0%3.3381...34
C県7320.0665...+46.4%1.3309...11
11,0001201920
日記
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