賃金の上昇分を価格転嫁すると貧困が悪化する?-2

 以前に書いた問題の続き。まずは以前に書いた問題。

5人(ABCDE)が暮らす世界です。
Aという経営者の下でXという生活必需品を作ってました。
Xの価格は1万円で、一人10個/月、5人で50個/月必要です。
B、Cは賃金が20万円/月、D、Eは10万円/月でした。
経営者のAは40万円/月でした。
ある月から賃金が1割上がりました。
B、Cは賃金が22万円/月、D、Eは11万円/月になり、
経営者のAは44万円/月になりました。
増えた賃金の合計10万円/月を価格転嫁します。
Xの価格は10万円/月÷50個/月=2千円上昇します。
Xの価格は1万2千円になりました。
D、Eは賃金が上がる前は10個/月買えましたが、
賃金が上がった後は9個/月しか買えなくなりました。
賃金が上がって貧しくなった?

このパラドックスを解いて、
賃金が上がったら価格転嫁しても、
5人の皆が裕福になることを証明しましょう。

 ここでは、賃金を一律で1割上昇させている。前回は、一律に1万円増やしてみたり、経営者Aの賃金を下げてから、一律で1割上昇させたり一律に1万円増やしてみたりした。その結果は、皆が裕福になることはなかった。この件について に尋ねてみたところ、「生産性向上が伴わない賃金上昇」ではダメだという回答だった。しかし、生産性向上を「労働時間の短縮」という形で表現してもらったところ、受け取る賃金が上昇せず、賃金が上昇しないので価格転嫁する必要もなく、Xの価格が変わらない状態なら、5人の皆が「余暇の時間が増えた」という「裕福さ」は得られたが、受け取る賃金を上昇させて、その分を価格転嫁させると、やはり、DとEが買えるXの量が減ってしまって、それでも労働時間を減らせたのだから「裕福になった」という理屈で回答した。

 そこで、生活必需品のXを買える量が減ってはダメだという条件を加えたところ、次のような案を示してくれた。

  • A: 40万円 → 48万円 (+8万円、20%増)
  • B, C: 20万円 → 28万円 (+8万円、40%増)
  • D, E: 10万円 → 20万円 (+10万円、100%増)

総賃金: 40万+20万×2+10万×2=100万円
新総賃金: 48万+28万×2+20万×2=48+56+40=144万円
総賃金の上昇額: 144万円−100万円=44万円/月

価格転嫁: 増えた賃金の合計44万円/月を、Xの必要量50個に転嫁します。

  • 44万円 ÷ 50個 = 8,800円/個
  • Xの新しい価格: 10,000円 + 8,800円 = 18,800円/個 (88%上昇)

 それぞれの変化を表にしてみる。

住民賃金 [円]上昇率 [%]Xの購買数 [個]余った賃金 [円]
480,0002010292,000
280,000401092,000
280,000401092,000
200,0001001012,000
200,0001001012,000

 A、B、Cは余った賃金が減っているのだが、生活必需品が十分に買えている上に「生産性向上」で労働時間が短くなっているのだから「裕福になった」とみなせるということらしい。労働時間が変わらないのなら「裕福になった」とは言えないだろう。 の設定では労働時間が半分になるほど生産性が向上したことになっている。それならば、確かに「裕福になった」とみなしても良いかもしれない。
 また、DとEも生活必需品Xは十分に買えている上に、「余った賃金」まで生まれた。しかも労働時間が短くなったのだから、「裕福になった」とみなせるだろう。

 この の案の特徴は、賃金の格差を減らしたことにある。賃金が低かった労働者の賃金をそうでない労働者の賃金よりも大きく上昇させている。そのことで、賃金の上昇を商品の価格に転嫁することにより、低所得者が貧しくなる問題を避けることができた。

日記
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コメント

  1. 物価の上昇率が88%なのに、賃金の上昇率はDとEは100%で物価の上昇率を上回っているけれど、Aは20%で、BとCは40%で物価の上昇率を下回っている。
    ここで疑問。賃金の上昇率を全て価格転嫁した場合、平均賃金の上昇率が物価上昇率を上回ることは理論的に可能なのか?
    試算では、生産量を必要以上に増やしたり、あるいは賃金を預金や投資などに回さずに全て消費に回すことで、平均賃金の上昇率と物価上昇率を等しくはできたが…。生産量をさらに増やせば賃金転嫁分の物価上昇率を抑えることができるけれど、大量の在庫をどこかに売らないと赤字になる。いわゆる「輸出」で海外に売りつけるわけだけど、買う国の方にも労働者がいて賃金を貰って何かを生産しているわけで…。

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