ラジオで貧困と戦場での残虐行為に因果関係があるかのような発言があったので、貧しい人に対するマイクロアグレッションじゃないかと思って、本当に因果関係があるのかネットで検索してみたら、2010年の論文が見つかった。
貧困と犯罪に関する考察–両者の間に因果関係はあるのか?
津島 昌寛詳細情報
貧困と犯罪に関する考察–両者の間に因果関係はあるのか? : 2010|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
タイトル:貧困と犯罪に関する考察–両者の間に因果関係はあるのか?
著者:津島 昌寛
シリーズ名:課題研究 貧困と犯罪・非行
別タイトル:A review of studies on poverty and crime: does poverty cause crime?
出版年(W3CDTF):2010
掲載誌名:犯罪社会学研究 = Japanese journal of sociological criminology / 日本犯罪社会学会 編
掲載号:35
掲載ページ:8~20
一般の人々がイメージする貧困は終戦直後の日本に代表される貧困(絶対的貧困)であるという.しかし,今や日本の貧困は質量的に大きく変容した.犯罪との関連で考える場合,貧困を絶対的貧困としてとらえること(金に困って食べ物を盗む)は適切とはいえないだろう.貧困問題が叫ばれる時代,貧困と犯罪の複合的な関係をあらためて問い直すことが必要である.本稿の目的は,貧困と犯罪を主題とする欧米の既存研究を検討し,貧困と犯罪との関連性を探ることである.まず,貧困の概念を整理するとともに,不平等など類似の概念とのちがいをさぐる.そのうえで,貧困と犯罪の理論的関連性を多面的な角度から明らかにする.その結果,貧困と犯罪は関係があるが,直接的因果関係でないことがわかった.しかし他方で,貧困は分岐的に変化しており,他のさまざまな社会的・文化的要因を介して,もしくは相互に触発し合い,犯罪行動の発生に影響をあたえていることが確認された.したがって,さまざまな間接的影響をあわせた,貧困が犯罪にあたえる総合的影響は小さくないようにおもわれる.最後に,犯罪社会学として今後取り組むべき貧困と犯罪に関連した研究課題をいくつか提示する.
犯罪社会学研究35巻(2010)p.8-20
, 津島昌寛「貧困と犯罪に関する考察 (課題研究 貧困と犯罪・非行)両者の間に因果関係はあるのか?」
論文で使われている画像。
まず、この論文で考察してる「貧困」は「絶対的貧困」ではなく「相対的貧困」の方。
(1)直接的因果関係は否定。貧困それ自体は直接的に犯罪行為を引き起こすことはないという結論が研究者の間では一般的らしい。
(2)媒介関係(貧困が他の要因を介して犯罪を引き起こす)の媒介変数はストレスと不公平感だけど、慢性的な貧困によるストレスが原因になるかもしれないけれど適応しちゃえば問題なくて、急に貧乏になる経済的損失がストレスの方が原因になるという意見もあるらしい。不公平感の方は富裕層との格差が金を奪われている的な恨みや不満になって犯罪行為を引き起こすという意見もあるらしい。
(3)交互作用の関係(貧困だけでは生じないが、特定条件が重なる、言い換えると、貧困以外の他の要因(第3変数)が組み合わされることによって、犯罪が生じる場合)については、第3変数の例として地域環境が挙げられていて、悪い環境に適応して犯罪に至るケースもあるとの意見。
(4)疑似関係(第3変数が貧困と犯罪の共通の要因となっているために、あたかも変数の間に2つの因果関係が存在するかのようにみえる関係)については、第3変数の例としてセルフコントロール(自己抑制)の欠如が挙げられていて、それが原因で犯罪に走るし、所得が低くなるという意見。
貧困と犯罪の間に直接的な因果関係はないのだけど、残念ながら「貧乏人は犯罪者になりやすい」を否定できる論文ではなかった。貧しい民族だから戦場で残虐行為を行っているという意見を否定できる論文でもなかった。第3変数しだいで貧困は犯罪と結びつかないのだけど、貧困層とそうでない層との比較で貧困層の方が犯罪に結びつきやすいように見えてしまう。貧困と犯罪を結び付けるのは、私は貧しい人に対するマイクロアグレッションだと思うのだけど、誰か貧しい人を犯罪者候補のようにみなす意見を明確に否定してくれないかな。上の図の(2)~(4)では貧困層もそうでない層も変わりないことを証明してくれないかな。
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