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 1 生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定が生活保護法3条、8条2項に違反して違法であるとされた事例
2 生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例

全文

事件番号 令和5(行ヒ)397  生活保護基準引下げ処分取消等請求事件 令和7年6月27日 最高裁判所第三小法廷(原審 大阪高等裁判所 令和5年4月14日)

  1 生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定が生活保護法3条、8条2項に違反して違法であるとされた事例
2 生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)中の生活扶助基準の改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例

全文

事件番号 令和6(行ヒ)170  生活保護基準引下げ処分取消等請求事件 令和7年6月27日 最高裁判所第三小法廷(原審 名古屋高等裁判所 令和5年11月30日)

 原審が名古屋高裁の場合の全文から引用。上記の両方の原審で文章は同じ。ただし、原審が名古屋高裁の場合は「上告人」が大阪高裁の場合は「被上告人」。

 以上に述べたところによれば、物価変動率は、生活扶助基準の改定の際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。そうすると、上記アの不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として基準生活費の改定率を定めることが、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を有するものというためには、上記限界を踏まえてもなお物価変動率のみを直接の指標とすることが合理的であることにつき、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、専門的知見に基づいた十分な説明がされる必要があるというべきである
 しかるに、上告人らは、平成15年中間取りまとめにおいて、消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を挙げて、物価変動率のみを直接の指標として用いても専門的知見と整合しないものではないなどと説明するにすぎず、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることが合理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされているということはできない。上記のとおり、平成15年中間取りまとめは、消費者物価指数の伸びを指標とすることについての検討の必要性に言及したものにすぎないし、平成25年報告書にも、厚生労働省において他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合もあり得ることを前提とする記載があるにすぎない。そして、物価変動率を指標とすることが、一般論としては専門的知見と整合しないものではないからといって、それまで水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならないところ、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない
 そうすると、デフレ調整における改定率の設定については、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的知見との整合性を欠くところがあり、この点において、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったものというべきである。
 なお、上記事実関係等によれば、平成29年報告書において、本件改定後の夫婦子1人世帯における生活扶助基準額が一般低所得世帯の生活扶助相当支出額とおおむね均衡することが確認されたと評価されているが、デフレ調整において物価変動率のみを直接の指標として用いた厚生労働大臣の判断には、従来の水準均衡方式における改定との連続性等の点において専門的知見との整合性を欠くところがあったというべきことは上記のとおりであって、デフレ調整が基準生活費を一律に4.78%も減ずるものであり、生活扶助を受給していた者の生活に大きな影響を及ぼすものであることも考慮すると、本件改定後に行われた平成29年検証の結果によって、デフレ調整に係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとの上記評価が左右されることはないものというべきである。

(4) 以上によれば、本件改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法というべきである。

日記
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