いわゆる「免税事業者」が仕入れ時に支払った消費税を価格転嫁する仕組みと、課税事業者が免税事業者や消費者から仕入れたときの仕入税額控除の計算方法が分かりましたので、私が作成した図を修正して、記事を書きなおしました。
結論を先に書くと、インボイス制度が始まると、免税事業者から仕入れた課税事業者は仕入税額控除ができなくなり、売り上げの消費税相当額を全て納付しなければいけない。その結果、免税事業者が仕入れた課税事業者(流通を図示した場合には免税事業者の前)が納付する消費税に相当する額を免税事業者から仕入れた課税事業者(流通を図示した場合には免税事業者の後)も納付することになり、「生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組み」が崩れ、消費者が負担した消費税よりも多くの消費税が納付されることになる。ただし、免税事業者を「消費者」とみなし、免税事業者が仕入れた課税事業者は免税事業者ではなく「消費者」に販売したと解釈すると、最終的に消費者(小売業者から買った消費者と免税事業者)が負担した消費税と課税事業者(免税事業者が仕入れた課税事業者を含む)によって納付された消費税の額は一致する。
まずは消費税の仕組みを復習する。
消費税は消費者が負担して事業者が納付する制度である。いわゆる「間接税」であるが、他の間接税と違って、税額が消費者に分かるようになっているのが特徴である。
間接税ということは、事業者が消費税分を価格に上乗せして、その価格で買う消費者が最終的に負担することになる。事業者が事業者から仕入れる時にも消費税を負担するのだが、仕入れた時に支払った消費税が納付するときに控除される仕入税額控除という仕組みがある。それで、全ての事業者が消費税を納付していれば、消費者が負担した消費税と事業者が納付した消費税の総額が一致する。仕入税額控除がなければ、事業者が納付した消費税の総額が消費者が負担した消費税よりもはるかに高くなって、事業者も消費税を負担していることになり、消費税の「消費者が負担する」という仕組みが崩れてしまう。
・消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し事業者が納付します。
消費税のしくみ|国税庁
・消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して、広く公平に課税されますが、生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組みが採られています。
・商品などの価格に上乗せされた消費税と地方消費税分は、最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納めます。
財務省の「消費税に関する基本的な資料 : 財務省」に載ってる「多段階課税の仕組み(イメージ)」によると、消費者が負担する消費税と事業者が納付した消費税の総額が一致する。
ところで、「全ての事業者が消費税を納付していれば、消費者が負担した消費税と事業者が納付した消費税の総額が一致する」と書いたが、全ての事業者が消費税を納付しているわけではない。「事業者免税点制度」というものがあり、小規模な事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられている特例措置で、前々年(個人)又は前々事業年度(法人)の課税売上高が1,000万円以下の事業者については、その課税期間について、消費税を納める義務が免除されている。いわゆる「免税事業者」の制度である。
消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます(注)。
No.6501 納税義務の免除|国税庁
(中略)
納税義務が免除される事業者(以下「免税事業者」といいます。)は、課税資産の譲渡等を行っても、その課税期間は消費税が課税されないことになり、課税仕入れおよび課税貨物に係る消費税額の控除もできません(課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が多い場合でも、還付を受けることはできません。)。
この免税事業者も仕入れ時に消費税を支払っているので、消費者に販売したり、課税事業者に納品する際に仕入れ時に支払った消費税に相当する額を価格に転嫁する。ちなみに、課税事業者の場合は、仕入れ時に支払った消費税の額の他に付加価値に相当する消費税の額(すなわち納付する消費税の額)も価格転嫁する。
消費税の転嫁のあり方 – 消費税の中小・小規模事業者向けの特例に関する資料 : 財務省
では、財務省の「消費税に関する基本的な資料 : 財務省」に載ってる「多段階課税の仕組み(イメージ)」の「完成品製造業者」が免税事業者だったら、多段階課税はどうなるか。修正した図を作った。
免税事業者には納税義務がないので利益等に相当する消費税額(3000円)は納付しないし価格転嫁もしない。その結果、免税事業者から仕入れた課税事業者は仕入れ価格が安くなり(-3000円)、価格転嫁する額も低くなる(-3000円)。最終的に消費者が支払う価格も消費税も低くなる(-3000円)。しかし、免税事業者から仕入れた課税事業者は課税事業者から仕入れた場合と同じ率の消費税を支払っているとみなして仕入税額控除ができる。すなわち仕入価格に含まれる消費税分以上の額が控除され、その額が免税事業者から仕入れた課税事業者の「益税」のようになる。上の図で免税事業者が22000円(消費税分は2000円)で仕入れて、その免税事業者から課税事業者が52000円で仕入れた場合は52000円の110分の10である4727円から免税事業者が支払った消費税分2000円を引いた2727円が課税事業者の「益税」のようになる。
さて、インボイス制度が始まったら、「免税事業者」から仕入れた課税事業者は免税事業者からの仕入に対して「仕入税額控除」を適用できなくなる。その結果、販売・納品時に請求した消費税(地方消費税を含めた消費税率が10%ならば販売・納品価格の110分の10)を全て納付しなければならない。下の図のように免税事業者から52000円で仕入れたのならば、インボイス制度が始まる前には控除されていた4727円も納付しなければならない。その結果、課税事業者が納付する消費税の総額は免税事業者が仕入れ時に支払った消費税の分だけ消費者が負担した消費税よりも高くなる。下の図では、消費者が負担した消費税は購入価格107000の内の9727円なのに課税事業者が納付した消費税の総額は11927円になり、2000円も高い。
巷では、免税事業者から仕入れた場合も課税事業者から仕入れた場合と同じ価格で仕入れたかのように解説されていることが多いので、その場合の修正図も作っておいた。下の図のように、財務省の「消費税に関する基本的な資料 : 財務省」に載ってる「多段階課税の仕組み(イメージ)」と同じように消費者が支払う価格は110000円で免税事業者から仕入れた課税事業者の仕入価格も55000円である。その結果、免税事業者の利益等は33000円になり、課税事業者であれば支払っていた消費税分3000円だけ高くなる。ただし、これは「益税」ではなく「付加価値」を30000円から33000円に見直して価格転嫁しただけである。
この場合も、消費者が負担した消費税は購入価格110000の内の10000円なのに課税事業者が納付した消費税の総額は12000円になり、2000円も高い。
このように、消費税の「生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組み」が崩れ、消費者が負担した消費税よりも多くの消費税が納付されることになる。
ただし、ここで政府の詭弁を予想しておく。
それは、「免税事業者は消費者と同じである」という詭弁である。免税事業者が消費者ならば、免税事業者が仕入れ時に支払った消費税は「消費者が支払った消費税」である。上の図で「消費者」が支払った消費税は9727円、あるいは10000円であるが、「消費者」とされた免税事業者が支払った消費税2000円を加えると、消費者の支払った消費税の総額は11727円、あるいは12000円となり、課税事業者が納付した消費税の総額11927円、あるいは12000円と一致する。
「免税事業者は消費者と同じである」という詭弁を許すのなら、インボイス制度が始まっても、財務省の「消費税に関する基本的な資料 : 財務省」に載ってる「多段階課税の仕組み(イメージ)」は変わらず、消費税の「生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組み」は崩れない。その詭弁を許さないのなら、消費税の「生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組み」は崩れ、インボイス制度には構造的な欠陥があることになる。
ところで、上の図を見れば分かる通り、インボイス制度が始まると、免税事業者から仕入れた課税事業者は納付する消費税が増える。すなわち増税である。まずは上の図のように免税事業者から52000円で仕入れた場合は仕入れた課税事業者の「益税」のようになっていた2727円を支払わなければいけない。さらに、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税2000円の分も納付しなければいけない。合計で4727円も「増税」されることになる。免税事業者の方は仕入れ時に支払っていた消費税分を価格転嫁できていた状態で課税事業者になって利益等30000円に相当する消費税3000円も価格転嫁できれば、仕入れ時に支払った消費税も仕入税額控除が適用され、結局は「増税」にはならない。実際は価格競争で低価格にすることが求められたせいで、仕入れ時に支払った消費税は価格転嫁できていない(利益を減らしている)ことが多かったり、課税事業者になったとしても、やはり価格競争があるので価格維持を求められて納付する消費税分を価格転嫁できずに利益を減らすことになることが予想されていて、インボイス制度が実質的に「増税」になりそうである。
免税事業者から仕入れ続ける課税事業者にとっても、課税事業者に変わることにした免税事業者にとっても「増税」ということになる。さらに、免税事業者から仕入れていた課税事業者は「増税」が嫌で免税事業者からの仕入れを中止するかもしれず、そうなったら免税事業者の仕事が減ることになる。あるいは、免税事業者から仕入れ続ける課税事業者が「増税」分を免税事業者に減額させて仕入れるようになったら、免税事業者は収入が減り、仕入れ額は変わらないので利益も減ることになる。
インボイス制度が始まって免税事業者が全て課税事業者になり、納付する消費税分も価格転嫁できるようになったら、消費者が負担する消費税が増える。すなわち、消費者にとっても「増税」になる。結局は政府の税収が増える仕組みなので、国民の誰かにとっての「増税」になる。それがインボイス制度である。
インボイス制度の構造的な欠陥は他にもある。
インボイス制度では免税事業者から仕入れた課税事業者は、その仕入れに対して仕入税額控除ができない。その結果、免税事業者からの仕入れ額の消費税分(税率が10%ならば110分の10)を納付しなければいけない。それは利益等がなくても同じである。仕入れ価格を価格転嫁しただけで、その分の消費税を納付しなければいけない。価格転嫁しなければ赤字になるので、価格転嫁する必要があるのだが、その分の消費税を納めることで赤字になる。これはとんでもない制度である。インボイス制度は始めてはいけない。そして、そもそも消費税に問題があるので、消費税を廃止した方が良い。
次のページ以降は修正前に書いたもので、そのまま残しておきます。
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