消費税減税で収入が減る人たち

 インボイス制度が騒がれ始めてから消費税を納めなくても良い「免税事業者」のことを知った。

消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます(注)。
(中略)
納税義務が免除される事業者(以下「免税事業者」といいます。)は、課税資産の譲渡等を行っても、その課税期間は消費税が課税されないことになり、課税仕入れおよび課税貨物に係る消費税額の控除もできません(課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が多い場合でも、還付を受けることはできません。)。

No.6501 納税義務の免除|国税庁

 このインボイス制度に反対している人もいて、そもそも消費税にも反対、あるいは減税すべきだと主張している人もいる。

\( 消費税減税に\begin{cases}賛成\cdots (a)\\反対\cdots (b)\end{cases} \)

\( インボイス制度に\begin{cases}賛成\cdots (c)\\反対\cdots (d)\end{cases} \)

 賛否で場合分けすると、次の(1)~(4)の4通り。

\( (1)\begin{cases}消費税減税に賛成\cdots (a)\\インボイス制度に賛成\cdots (c)\end{cases} \)

\( (2)\begin{cases}消費税減税に賛成\cdots (a)\\インボイス制度に反対\cdots (d)\end{cases} \)

\( (3)\begin{cases}消費税減税に反対\cdots (b)\\インボイス制度に賛成\cdots (c)\end{cases} \)

\( (4)\begin{cases}消費税減税に反対\cdots (b)\\インボイス制度に反対\cdots (d)\end{cases} \)

 「免税事業者」の間ではインボイス制度に反対する声が目立っているような気がする。
 では消費税の減税には賛成なのだろうか? 低所得の個人事業主のためにインボイス制度に反対している人が多いと思うが、同時に低所得者のために消費税も減税すべきだと訴えているような気がする。上の(2)の立場である。本当にそれで良いのだろうか?

 まずは消費税の課税の仕組みについて。財務省の図が分かりやすいので引用させてもらう。

多段階課税の仕組み(イメージ)
消費税に関する基本的な資料 : 財務省

 消費者が税抜き10万円の商品を買ったら消費税10%の1万円を同時に支払う。その消費税1万円は店(小売業者)が全てを納税するのではなく、上の図の例では仕入れ時に支払った消費税7千円を引いた3千円を納める。その政府からすれば足りない7千円は小売業者が仕入れた卸売業者が仕入れで支払った消費税5千円を引いた2千円を納める。足りない5千円は卸売業者が仕入れた完成品製造業者が仕入れで支払った消費税2千円を引いた3千円を納める。足りない2千円は原材料製造・調達業者が納める。それで合計1万円が納められ、消費者が支払った消費税の全てが納められる。
 事業者が消費税を支払う時に仕入れ時に支払った消費税を除く仕組みは「仕入税額控除」と呼ぶらしい。「免税事業者」はこの「仕入税額控除」を利用できないらしい。

 さて、上の図でもしも完成品製造業者が「免税事業者」だったら(以下「免税事業者A」と書く)、納めていた3千円を納める必要がない。すると消費税が支払った消費税1万円の内3千円が納税されなくなって、消費者は買った時には見えない「免税事業者A」に3千円を支払ったようになる。「免税事業者A」は「免税事業者」になったことで「利益等」が3万円から3万3千円に増える。もしも消費税が廃止されたら、「免税事業者A」は「利益等」が3万3千円から3万円に減る。「免税事業者」ではなく消費税を納めた場合と同じ額の「利益等」に戻るだけとも言える。
 では、「免税事業者」は「利益等」が減る消費税減税に賛成なのだろうか?
 「免税事業者」も仕入れ時に消費税を支払っているし、他の物品を買ったりサービスを受ける時に消費税を支払っている「消費者」の立場だから、その点では消費税率が下がった方が良いだろう。しかし、消費税率が下がったら自分の収入も減ってしまう。消費税減税に賛成だろうか、反対だろうか?

 インボイス制度が始まったら、「免税事業者」は消費税を納める「適格請求書発行事業者」になるか「免税事業者」のままでいるか選択することになる。ただ、「免税事業者」が「免税事業者」のままでいても、消費者が支払った消費税が全て国に納められるようにするため、「免税事業者」から仕入れた事業者は仕入れ時に支払った消費税に「仕入税額控除」を適用できなくなる。例えば上の図で完成品製造業者が「免税事業者」だったら卸売業者(以下「卸売業者B」と書く)が国に納める消費税は2千円から7千円に増える。国に納められる税金は 2千円+7千円+3千円=1万2千円 に増える。消費者が支払った1万円よりも多い1万2千円が納められる。あれ?どこか間違っているかな? 上の図で「免税事業者A」(完成品製造業者)が「原材料製造」業者に支払った消費税2千円はどのように扱われるのだろう?
 それはともかく、「卸売業者B」は納める消費税を増やしたくなくて「免税事業者A」から仕入れなくなるかもしれない。だから「免税事業者」は仕事を失いたくなくてインボイス制度に反対しているらしい。「適格請求書発行事業者」になったら納めなくて済んでいた消費税分の減収になるのでインボイス制度に賛成できないらしい。
 制度上可能かどうか分からないが「免税事業者」が消費税を請求しない場合(ネット上には「免税事業者は消費税を請求して良いのですか?」という質問があって、回答は「消費税を請求しなればいけません」ではなく「請求できます」という「可能」を強調した回答がある)、例えば上の例で「免税事業者A」が「卸売業者B」に税抜き5万円の価格の他に消費税5千円を請求していたのだけど、消費税を請求するのではなく消費税なしで5万5千円で売った場合、「卸売業者B」の仕入れ価格は5万5千円で変わらないが、その中に消費税が含まれていないので「仕入税額控除」を使って納める消費税を減らせず、やはり2千円ではなく7千円を納めることになる。「卸売業者B」は嫌だろう。

 そんなわけで、「免税事業者」の多くは収入が減るか仕事が減ってしまうインボイス制度に反対しているのだと思うが、消費税減税に関してはどうなのだろう? 消費税率が下がると、消費税も収入の一部にしていた「免税事業者」の収入が減ってしまう。インボイス制度に反対している「免税事業者」は消費税減税に賛成しているの(上の場合分けの(2))だろうか? それとも消費税減税に反対しているの(上の場合分けの(4))だろうか?

\( (2)\begin{cases}消費税減税に賛成\cdots (a)\\インボイス制度に反対\cdots (d)\end{cases} \)

\( (4)\begin{cases}消費税減税に反対\cdots (b)\\インボイス制度に反対\cdots (d)\end{cases} \)

 もしも「免税事業者」が上の場合分けの(4)の立場だったとしたら、政党が(2)の立場で訴えて「免税事業者」の支持を得ようとしていたら、それは大きな間違いということになる。日本には消費税率を下げたりゼロにしたりして消費税を減税したら収入が減る人たちがいる。そのことを忘れない方が良い。

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